“脱腸”です。

それは子供がなる病気でしょ?
いやいや、鼠径ヘルニア(脱腸)の65%は50歳以上の方です。
そして、男性の3人に1人は一生涯で一度は発症する可能性があります。
世間一般では知名度は決して高くありません。が、実は全国の1年間に行われる消化器外科手術の中で、堂々第一位です。有名な盲腸(虫垂炎)、胆石、そして癌(胃癌、大腸癌など)を抑えダントツに多い疾患です。

鼠径ヘルニアチェックリスト

☑ 足の付け根に柔らかい膨らみが出てくる
 (男性の場合は陰のうに症状が出る場合も)
☑ 手で押し込んだり、横になると消えてしまう
☑ なんとなく下腹部に違和感や不快感がある
☑ 下腹部にときどき刺し込むような痛みがある
☑ お腹が張っているような感じがする
このチェックシートは初期症状を簡単にリスト化しています。
この症状が=鼠径ヘルニアとは断定できませんが、チェックが多く付けば付くほど、可能性は高くなります。
いかがでしょう。皆さんもチェックしてみてください。

手術件数

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年間の消化器外科の手術件数を見てみます。
皆さんよくご存じの癌も多いもので約6万件弱です。虫垂炎(通称:盲腸)に至っては、5万件程度です。さて第一位は、脱腸なんです。約16万件です。癌で最も多い大腸癌のほぼ2.5倍の件数です。
つまり、手術をしなければ治らない病気で一番メジャーな病気は脱腸なんです。
ヘルニア=腰痛じゃないの?
多くの方が腰痛と認識されていますが
腰痛の原因になるのは椎間板ヘルニアです。そもそも、「ヘルニア」とは「本来出ないものが飛び出した状態」のことを指します腰椎(腰骨)の間にある「椎間板」が「飛び出した」病気が「椎間板ヘルニア」なのです。つまり腰痛のことだけを差しているというのは間違いなのです。他にはお臍が飛び出す、いわゆる出べそは「臍ヘルニア」と言います。
そして「鼠径ヘルニア」は、鼠径部に腸などが飛び出す病気という意味です。

原因と症状

では、鼠径部(そけいぶ)ってどこ?
鼠径部は、図で示す左右の太ももの付け根にある溝の内側の三角形の部分です。
分かりやすく言うと、ビートたけしさんの『コマネチ』で表現される部分になります。
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鼠径ヘルニアはなぜ起こるのでしょう

ご存じのとおり、我々は進化し二足歩行するようになりました。そうなると腹腔(おなか)の底に位置する鼠径部に内臓の全圧力(重み)がかかるようになります。その壁が弱くなると圧力に負けて内臓が脱出するようになります。これが鼠径ヘルニアです。

つまり、二足歩行する以上、永遠にお付き合いが続く病気なのです。

症状

鼠径部の壁から腸管が飛び出すようになると、どんな症状がでてくるでしょう?
こまかく説明すると、腸管が直接飛び出すわけではありません。人の体では、腸管を含む色んな内臓が、腹膜という袋に包まれています。この袋が、鼠径部の腹壁が弱くなった部分から風船のように飛び出します。この飛び出した風船の中に腸管が脱出してきます。
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初期には鼠径部の柔らかいふくらみに気づきます。それは手で押すとお腹の中に戻ったりします。
そのほかに、鼠径部にツッパリ感。不快感や違和感。そして何となく引っ張られるような感覚が出てきます。しかし、ずっと感じるわけではなく、このような症状が時々発生します。その多くは横になると軽くなったり消えたりします。

こんな初期症状のため、悪いものではないだろうと判断したり、ふくらみの場所が場所だけに恥ずかしいと感じたり、放置してしまう方が多くいらっしゃいます。

しかし、残念ながらこの鼠径部に開いた穴は、放置することで大きくなることはあっても、小さくなったり、自然に閉じることはありません。また、お薬で穴が閉じることもありません。
つまり、この穴は手術で塞ぐしかないのです。

嵌頓(かんとん)とは

さらに、放置しておくと日常生活に支障をきたすだけでなく、命に関わる危険性が潜んでいます。
その危険な病態を嵌頓と言います。
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これは脱出していた腸が戻らなくなるために起こります。嵌頓になると出てきた腸管がヘルニア門で締め付けられ、血流が途絶えます。そうなると腸管壊死(腐ること)を引き起こし腸穿孔(腸に穴が開くこと)、腹膜炎と進行することがあります。

緊急手術が必要となることもあり、状況によっては命の危険もあります。
「どのくらい脱出が大きくなったら嵌頓になるの?」とか「嵌頓を予防する方法は?」とよく聞かれますが、どの患者さんにいつ嵌頓が起こるかは、誰もわかりません。
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少なくとも、大きくなってきた、痛みが出てきたというサインは危険信号です。
その他に放置しておくと、写真のように巨大な脱出に至なり、日常生活に支障をきたすこともあります。

発症と手術件数

ここで、いろんな数値データをみてみましょう。
好発年齢は乳幼児と40歳以上の中高年です。よく脱腸は子供の病気と言われる方もいらっしゃいます。しかし、全手術症例の約65%が50~70歳代で乳幼児より中高年の方に多いということが分かります。男女比は4:1から8:1までと様々な報告がありますが、圧倒的に男性に多いことは事実です。これは鼠径部の構造の男女差によるものです。

発症数は年間40~50万人と推定されていますが、手術件数は約16万件ということで、7割近くの患者さんが手術を受けていない、もしくは受診すらしていないということになります。
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最初にお見せした、手術件数のグラフでは断トツの1位であったにもかかわらず、まだ3割程度の患者さんしか手術を受けていないわけです。
男性の3人に1人は発症するかもしれません
中高年の男性に多い疾患ということですが、一生涯で発症する可能性を計算します。すると男性で27%、女性で3%となります。男性の3人に1人は一生涯に1度は鼠径ヘルニアになるという計算です。

治療法について

自然治癒や薬の治療では治りません。物理的に塞ぐしか方法がありません。
脱腸帯やヘルニアバンドという圧迫バンドもありますが、圧迫を外すと当然脱出します。つまり完全治癒を目指すものではありません。手術までのつなぎという意味合いが強いものです。

根治する方法には手術しかありません。現在行われている手術には大きく分けて2つの方法があります。

鼠径部切開法

一つは、鼠径部切開法という方法です。この方法は鼠径部を5~6cmほどの切開し、メッシュという人工の網を使い、ヘルニア門(脱出している穴)を塞ぎます。

使用するメッシュの種類で術式が分かれています。
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腹腔鏡法

もう一つの術式が腹腔鏡を用いた方法です。

細い腹腔鏡と専用の鉗子という道具を用いて手術を行います。鼠径部切開法に比べて、皮膚切開は小さく美容面でも優れています。
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この腹腔鏡を用いた方法にも2種類あります。

腹腔内(お腹の中)に入り飛び出した風船(腹膜)を戻し、脱出している穴をふさぐ方法を腹腔内到達法(TAPP法)といいます。

もう一つが、腹腔内には入らず、腹壁と腹膜の隙間から入り、飛び出した風船を戻し、ヘルニア門をふさぎます。これを腹膜外到達法(TEP法)といいます。腹腔内に入らないため、内臓に触れることもなく、非常に安全性の高い術式です。

腹腔鏡法のメリット

鼠径部切開法と腹腔鏡法の違いは患部の観察力です。
鼠径部のヘルニア門(脱出口)は3か所あります。この穴を全て完全に塞ぐことが、術後再発を抑えるためには非常に重要です。

腹腔鏡法では、脱出口を腹腔鏡というカメラのハイビジョン映像で詳細に直接観察することができます。そのため、必要十分な大きさのメッシュを適切な場所に展開することが可能となります。

そのため、再発率が0.2%と非常に低く抑えることができます。
※鼠径部切開法は5%程度との報告があります。

よりダメージの少ない治療を

医療の進歩によって再発率の低い、傷の小さな手術が可能になりました。しかし、それは医療者サイドの一人よがりかもしれません。

なぜなら70%近くの患者さんは手術を受けていないのが現状です。
つまり、仕事などの日常生活が忙しく、入院が必要な手術にはなかなかな踏み切れない患者さんの視点からみると、術式の完成度以上に必要なものがあるのではないかと考えました。

今までは手術をすれば入院するのが当たり前でした。
しかし、時代の流れと共に、術式、麻酔方法、医療器具、医薬品などがどんどん進化してきました。  
その結果、病気によっては、朝来院し、手術。少し休んで夕方には帰宅できる“日帰り手術”が可能になってきました。
アメリカでは保険制度が違うこともありますが、全手術の約7割が日帰り手術になっています。

以上より、当院は
より安全でより体へのダメージを少なくすることで、手術をしても入院の必要がない治療。
それに特化した専門クリニックによる日帰り手術の提供を目指しました。

単孔式腹腔鏡下ヘルニア根治術(SILS-TEP法)/保険診療

当院は従来のTEP法をもう一段階進化させた、単孔式腹腔鏡下ヘルニア根治術(SILS-TEP法)を行っています。従来のTEP法ではお腹に3つの傷ですが、この方法はお臍の中に一つ切開をするのみです。より、身体へのダメージを軽減できます。


※術前検査で腹腔鏡下手術が適していない患者さんに関しては、鼠径部切開法を選択します。各患者さんに最適な術式を選択できるのも、専門医ならではの強みと考えます。
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当院の術式での創

術後の痛みと社会復帰までの日数

当院の手術は全身麻酔で行います。そのため、手術中は全く意識も痛みもありません。目が覚めると手術は終わっています。少し回復室で休んでいただき、帰宅基準を満たすと退院です。

回復室の中で、飲み物や食事も摂ってもらえます。帰宅後はその日からシャワー浴も可能です。つまり、普段通りの日常生活を送っていただけます。

しかし、傷も小さく、身体へのダメージが少ないと言っても、本当に入院の必要は無いの?という声は当然です。
最大の不安は術後の痛みだと思います。痛みは各個人の主観でしか評価できません。

そこで、当院では手術を受けて頂いた患者さんに術翌日ご連絡を差し上げ、痛みの程度を1~5段階で評価してもらっています。1が“全く痛くない”、2が“少し痛い”、3が“痛い”、4が“相当痛い”、5は“想像を絶するほど痛い”と定義しています。

全体の集計と、年代別の集計をお示しします。
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術翌日の痛みは全体集計で75%の方が“少し痛い”程度までで日常生活に大きな不便は感じていらっしゃいません。年代別に見ていくと、若い方では痛みを強く感じ、年代が上がるにつれ、軽くなっている傾向にあります。
もう一点不安点を挙げると、社会復帰までの時間だと思います。
せっかく日帰り手術を受けても、自宅で動けなければ意味がない。と思われると思います。
この点も当院の患者さんのデータをお示しします。
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全ての患者さんが術後1週間以内に社会復帰されています。術後3日目までに社会復帰できた患者さんは約75%です。しかし、このデータはお仕事や、通常負荷の家事が可能になった期間であり、ゆっくりと気を付けながらの日常生活はほぼ全例で翌日から可能になっています。
手術でしか根治できない鼠径ヘルニア。まだまだ正確な情報が浸透していません。多くの方が、手術を受けられていない、診察すら受けていないのが現状です。

当院では日帰り手術で根治が可能です。

適切な時期に適切な診断を受ければ、日常生活を犠牲にすることなく治療を受けることが出来ます。