鼠径ヘルニアについて鼠径ヘルニアとは

一般的に “脱腸”と呼ばれる鼠径(そけい)ヘルニアという病気は、年間40~50万人の患者さんがかかる病気といわれています。しかし、実際に手術を受けている患者さんは12万人です。つまり、多くの方が鼠径ヘルニアを発症しながら、放置して生活を送っているということです。

鼠径ヘルニアは、症状である足の付け根のふくらみを押せば元に戻ることや日常生活に支障が少ない良性の病気であることから、軽視されがちな病気です。ただし、症状に気づきながら放置をしていると、脱出した腸がもとに戻らなくなる“嵌頓(かんとん)”に陥り、危険な状態となります。この嵌頓という状態になると、腸は脱出口で締め付けられ血流が途絶え、重篤な状態まで進行して命に危険が及びます

鼠径ヘルニアとは?


鼠径ヘルニア(脱腸)とは、足の付け根あたり(鼠径部)の筋膜が薄くなってしまった部分から腸などの内臓物がはみ出てしまう症状のことです。

鼠径ヘルニアは小児から高齢者まで幅広く発症します。小児の場合は先天的な要因で脱腸が起こることがほとんどです。
一方で成人の場合は加齢による筋肉の衰えが主な原因で40歳以上の男性で多く発症します。詳しくは鼠径ヘルニアになりやすい人をご覧ください。

進化した人間は立ち上がって2足歩行するようになりました。そうすると内臓に重みがお腹の下の方にかかるようになりました。
お腹の中の内臓は腹膜に覆われており、その上には筋肉がいくつも重なり合っています。その筋肉と筋肉の間にはすき間があります。内臓の重みに押されて、このすき間から腹膜と腸が飛び出してくるのです。この飛び出した膨らみが「鼠径ヘルニア」です。


鼠径ヘルニアの原因

先小児の場合は先天的な要因、成人の場合は加齢による筋肉の衰えが主な原因と上記でご紹介しました。
成人の場合の加齢による筋肉の衰えについてより詳しくご紹介すると、脱腸が発症する太もものつけ根「鼠径部」には鼠径管という管があります。鼠径管には男性では精索が、女性では子宮円索などが通っていますが、この鼠径管の周辺の筋肉が加齢によって衰え、筋膜が弱ると鼠径管が開きやすくなってしまいます。
脱腸の多くは、この開きやすくなった鼠径管に腸が入り込むことで起こります。これが脱腸の原因となるわけです。

鼠径ヘルニアの症状

加齢とともに鼠径部の壁が弱くなると穴がひらき、中から腹膜が風船のように飛び出します。この風船のように飛び出した腹膜の中を腸が出入りするのが鼠径ヘルニアの症状です。鼠径ヘルニアになると太ももの付け根に膨らみを感じます。


それ以外にも脱腸の症状としては、次の内容があげられます。

  • 太ももの付け根に柔らかいふくらみが出てくる(大きさは個人差があります)。
  • その膨らみは手で押し込んだり、横になると消えてしまう。
  • なんとなく下腹部に違和感や不快感がある。
  • 下腹部にときどき差し込むような痛みがある。
  • お腹が張っているような感じがする。

鼠径ヘルニアの危険性について(嵌頓)


こちらの膨らみは痛みがない場合もあり、横になったり抑えたりすると膨らみがなくなり正常な状態へ戻るため、放置されがちです。
鼠径ヘルニアは良性の病気ですが、自然治癒やお薬の治療で治すことは不可能です。放置していくと日常生活に支障が出るだけでなく、時に命に危険が及ぶこともあります。その命に危険が及ぶ状態を“嵌頓(かんとん)”と言います。
嵌頓(かんとん)とは、脱出した腸がもとに戻らなくなることです。この嵌頓という状態になると、腸は脱出口で締め付けられ血流が途絶えます。


その結果、腸は腐り(壊死)、穴が開きます(腸管穿孔)。その穴から腸の内容物がもれだし、腹腔内(お腹の中)にひろがります。そして腹膜に炎症が起こり、“腹膜炎”という病態に進行します。

嵌頓になり、重篤な状態まで進行すると緊急手術が必要になり、対応がおくれると命に危険が及びます。
鼠径ヘルニアは“たかが脱腸”と思われがちですが、正しい知識を知ると怖い病気ですね。

鼠径ヘルニアは手術でしか治せません

鼠径ヘルニアという病気は手術でしか治せません。ヘルニアバンドや脱腸帯という圧迫する道具もありますが、圧迫を解除すれば腸が脱出します。
つまり“鼠径ヘルニアの治療”にはならないということです。いわゆる“手術までのつなぎの役割”です。
さて、この鼠径ヘルニアの手術ですが、様々な方法があります。医学は日進月歩で進化しています。

現在では腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いた身体に負担の少なく安全な術式が確立されています。この腹腔鏡を用いる術式を極めていくことで手術を受けたその日に帰宅できる、“日帰り手術”が鼠径ヘルニアの治療分野でも可能となりました。

Gi外科クリニックは腹腔鏡を用いた鼠径ヘルニアの根治術を提供しています。
より安全でより身体への負担が少ない術式を検討し、通常の腹腔鏡法をもう一段階進化させた治療を行っています。それが、お臍の中に1カ所だけ穴をあけて手術を行う、“単孔式腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(SILS-TEP法)”です。

詳しくは鼠径ヘルニアの治療をご覧ください。