鼠径ヘルニアの原因は?発症の仕組みとなりやすい人を大人・子ども別に解説
鼠径ヘルニアは、足の付け根の腹壁にある弱い部分に、お腹の中の圧力が加わって起こる病気です。
腹壁が弱くなる主な背景は、大人と子どもで異なります。
足の付け根のふくらみに気づき、なぜ起きたのか、生活習慣や体質が関係しているのかを知りたい方に向けて、発症の仕組みを整理しました。
この記事を読むと、生まれつきの体の構造と加齢による変化の違い、腹圧との関係、大人と子どもそれぞれの発症の背景、なりやすい人の特徴がわかります。
原因を把握しておくと、受診時に医師へ伝える内容や確認したい点を事前に整理できます。
鼠径ヘルニアの原因は腹壁の弱い部分から腹膜や腸などが飛び出すこと
鼠径ヘルニア(脱腸)は、下腹部の壁である腹壁の弱い部分から、腹膜に包まれた腸や脂肪組織などが皮膚の下へ飛び出す病気です。
発症の土台には、胎児期にできた腹膜の通り道(腹膜鞘状突起)が閉じずに残っていることと、加齢などによる腹壁の筋膜や結合組織の弱まりが関係しています。
腹壁に弱い部分がある状態でお腹の中の圧力(腹圧)がかかると、その部分から組織が押し出されます。
腹壁の弱さは発症の直接の原因にあたり、生活習慣や体質など発症しやすさに関わる危険因子とは区別して考える必要があります。
足の付け根にある鼠径管は腹壁の構造上弱くなりやすい
鼠径ヘルニアが足の付け根に起こるのは、鼠径部に鼠径管という腹壁を貫く通り道があり、周囲よりも構造的に弱くなりやすいためです。
鼠径管は、左右の足の付け根の少し上を、外側の上から内側の下へ斜めに走っています。
男性では精巣につながる血管や精管などを束ねた精索が、女性では子宮から伸びる子宮円索が鼠径管を通ります。
腹壁は、複数の筋肉の層と、筋肉を包む筋膜、結合組織などが重なってできた壁です。
鼠径部では、精索や子宮円索が腹壁を通り抜ける出入り口に加え、筋肉の層がなく薄い筋膜だけで内側を支える部分があり、お腹の内側からの力を受け止める壁が周囲より薄くなっています。
この弱い部分は、胎児期の通り道が閉じきらずに残っている場合と、成長や加齢に伴う組織の変化によって後から弱くなる場合があります。
ただし、鼠径管は誰にでもある正常な構造で、鼠径管があるだけで鼠径ヘルニアを発症するわけではありません。
お腹の中の圧力によって腸や脂肪組織などが押し出される
鼠径部に組織が飛び出すのは、腹壁の弱い部分にお腹の内側から圧力がかかり、腹膜とその中の組織が外側へ押し出されるためです。
腹圧(お腹の内側から腹壁にかかる圧力)は、立ち上がる、咳やくしゃみをする、いきむ、重い物を持ち上げるといった動作で一時的に高まり、横になると下がります。
腹圧が高まったとき、腹壁に弱い部分や閉じずに残った通り道があると、お腹の内側を覆う腹膜が袋状に押し出される仕組みです。
袋状になった腹膜をヘルニア嚢(のう)と呼び、ヘルニア嚢の中に小腸や大網などが入り込みます。
大網は、胃から垂れ下がって腸の前面を覆う、脂肪を多く含む膜です。
飛び出す組織は腸に限らず、大網などの脂肪組織だけが入り込んでいる場合もあります。
腹圧の上昇自体は、誰にでも日常的に起こる現象です。
腹圧が上がっただけで鼠径ヘルニアになるわけではなく、発症には腹壁に弱い部分があることが前提になります。
飛び出す場所で異なる外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアは、お腹の中の組織が飛び出す位置によって、主に外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアに分けられます。
外鼠径ヘルニアは鼠径管の入り口から鼠径管の中へ、内鼠径ヘルニアは鼠径管の後ろの壁にある弱い部分から前方へと、それぞれ異なる経路で飛び出します。
発症の背景にも違いがあり、外鼠径ヘルニアには生まれつきの構造が関係する場合がある一方、内鼠径ヘルニアは大人になってから弱くなった腹壁と関係することが多いタイプです。
どちらも足の付け根のふくらみとして現れるため、見た目だけで種類を見分けることはできません。
外鼠径ヘルニアは鼠径管の入り口から飛び出す
外鼠径ヘルニアは、お腹側にある鼠径管の入り口(内鼠径輪)から腹膜などが入り込み、鼠径管に沿って進むタイプです。
内鼠径輪は、精索や子宮円索が腹壁の内側から鼠径管へ入る出入り口にあたります。
飛び出した組織は鼠径管の中を斜めに下り、鼠径管の出口を越えて、男性では陰嚢まで達することもあります。
お腹の内側から見ると、外鼠径ヘルニアの入り口は、腹壁の内側を走る血管(下腹壁動静脈)より外側、つまり体の外寄りに位置しています。
この位置関係から「外鼠径」ヘルニアと呼ばれます。
発症には、胎児期にできた腹膜の通り道が閉じずに残っていることが関係する場合があります。
通り道が残っていても症状が現れる時期は人によって異なり、乳幼児期に発症する人もいれば、大人になってから初めて気づく人もいます。
大人の鼠径ヘルニアでも、外鼠径ヘルニアは多くみられるタイプです。
内鼠径ヘルニアは鼠径管の後ろの壁が弱くなって起こる
内鼠径ヘルニアは、鼠径管の後ろの壁にある弱い部分から、腹膜やお腹の中の組織が前方へ直接押し出されるタイプです。
鼠径管の後ろの壁では筋肉の層が乏しく、横筋筋膜と呼ばれる薄い膜が主に腹圧を受け止めています。
横筋筋膜や周囲の結合組織が弱くなると、壁の一部が前方へふくらみ、腹膜がその部分を押し広げるように飛び出します。
内鼠径ヘルニアは大人、特に中高年以降に多くみられ、腹壁を支える筋膜や結合組織の変化が関係すると考えられています。
お腹の内側から見ると、下腹壁動静脈より内側(体の中心寄り)から飛び出す点も、外鼠径ヘルニアとの違いです。
外鼠径ヘルニアと異なり、一般的には胎児期の腹膜の通り道を通らずに飛び出すため、生まれつきの構造よりも後天的な腹壁の弱さが発症の中心になります。
鼠径管の中を進むわけではないことから、陰嚢まで達することはまれです。
男性に多い理由と女性との構造の違い
鼠径ヘルニアは、女性より男性に多く発症します。
男性に多い背景には、胎児期の発育の過程と鼠径管の構造の違いがあります。
男性の鼠径管は、胎児期に精巣が陰嚢へ下りる経路にあたり、精索が通るぶん女性の鼠径管より太くなっています。
一方、女性の鼠径管にも子宮から伸びる靱帯が通っているため、腹壁に弱い部分があれば女性にも鼠径ヘルニアは起こります。
男性に多いのは発症しやすさの差であり、女性に起こらない病気ではありません。
男性は精巣が下りる過程で鼠径部に通り道ができる
男性の鼠径部に通り道ができるのは、胎児期に精巣がお腹の中から陰嚢へ移動するためです。
精巣は、はじめはお腹の奥の腎臓に近い位置でつくられ、成長とともに下へ移動し、妊娠後期に鼠径管を通って陰嚢へ到達します。
精巣が下りる前には、腹膜の一部が鼠径管を通って陰嚢へ向かい袋状に伸び、精巣が下りるための通り道がつくられます。
この通り道は、精巣を包む部分を除き、通常は出生前後から閉じていく仕組みです。
通り道が閉じずに残ると、お腹の中の腸や脂肪組織が入り込む経路となり、外鼠径ヘルニアの発症に関係します。
ただし、精巣の下降は正常な発育の過程であり、男性であってもすべての人が鼠径ヘルニアを発症するわけではありません。
女性も子宮を支える靱帯が鼠径管を通っている
女性にも鼠径管があり、子宮の位置を保つ靱帯の一つである子宮円索が通っています。
子宮円索は、子宮の上部の左右から伸びて鼠径管を通り、大陰唇の皮下組織に付着する靱帯です。
女性の鼠径管は男性より細いものの、腹壁を貫く通り道であることに変わりはありません。
そのため、腹壁の弱い部分にお腹の圧力がかかると、女性にも鼠径ヘルニアが起こることがあります。
女性の鼠径ヘルニアは、妊娠や出産を経験した人だけに起こる病気ではなく、出産経験のない女性や子どもにも発症します。
性別や出産歴だけで可能性を否定せず、足の付け根のふくらみに気づいた場合は、医療機関で確認を受けてください。
大人の発症に関わる加齢と腹圧
大人の鼠径ヘルニアは、腹壁の弱さという体の構造上の要因に、腹圧の上昇が加わって発症します。
腹壁が弱くなる背景には、加齢に伴う筋膜や結合組織の変化のほか、胎児期にできた腹膜の通り道が閉じずに残っていることもあります。
一方、慢性的な便秘や咳、前立腺肥大症による排尿時のいきみは腹圧を高める要因で、発症との関連は研究されているものの、それ単独で鼠径ヘルニアを起こすと確認されたわけではありません。
実際には複数の要因が重なって発症する場合もあり、一つの生活習慣だけを原因と決めつけることはできません。
加齢によって筋膜や結合組織が弱くなる
年齢を重ねると鼠径ヘルニアを発症しやすくなる主な理由は、腹壁を支える筋膜や結合組織の強さが加齢とともに変化するためです。
腹壁は筋肉だけでなく、筋肉を包む筋膜や、組織同士をつなぐ結合組織によって支えられています。
筋膜や結合組織の主な成分であるコラーゲンなどの性質が年齢とともに変わると、組織の強さが低下し、お腹の内側からの圧力に耐える力も弱まります。
筋肉の層が乏しい鼠径管の後ろの壁は組織の変化の影響を受けやすく、加齢は特に内鼠径ヘルニアの発症に関係します。
国際的な診療ガイドラインは年齢を成人の鼠径ヘルニアの危険因子の一つに挙げ、70〜80歳ごろに多くみられる鼠径ヘルニアは主に内鼠径ヘルニアであると報告しています。
ただし、加齢だけが原因ではなく、若い世代の大人にも鼠径ヘルニアは起こります。
生まれつき残った通り道から成人後に発症することもある
大人になってから発症した鼠径ヘルニアでも、生まれつきの構造が関係している場合があります。
胎児期にできた腹膜の通り道は通常、出生時までに閉じるとされていますが、出生後も開いたまま残る人もいます。
通り道が残っていても、乳幼児期や学童期に必ずふくらみが現れるわけではありません。
症状がないまま成長し、通り道の存在に気づかないまま大人になるケースもみられます。
その後、加齢による腹壁の変化や腹圧の上昇などが重なったときに、残っていた通り道から組織が入り込み、外鼠径ヘルニアとして発症することがあります。
生まれつきの構造があることと、実際に症状が現れる時期は必ずしも一致しません。
大人の鼠径ヘルニアには、加齢による変化だけでなく、生まれつきの構造が関わるものも含まれます。
慢性的な便秘や咳による腹圧との関係が指摘されている
慢性的な便秘や咳は腹圧を繰り返し高めるため、鼠径ヘルニアとの関連が指摘されています。
便秘で排便のたびに強くいきむ場合や、咳が長く続く場合には、そのたびに腹圧が上がり、腹壁の弱い部分に圧力が加わります。
腹壁に弱い部分があれば、圧力の繰り返しが組織の飛び出しに関係する可能性があります。
ただし、便秘や咳が鼠径ヘルニアの直接の原因であると確認されたわけではありません。
国際的な診療ガイドラインでは、慢性的な便秘と発症との関連を示す根拠の質は「低い」、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や慢性的な咳との関連は「非常に低い」と評価されています。
便秘や咳がない人にも鼠径ヘルニアは起こるため、これらの症状の有無だけで発症リスクを判断することはできません。
前立腺肥大による排尿時のいきみも腹圧を高める
前立腺肥大症で尿が出にくくなると、排尿のたびに強くいきむことがあり、腹圧が上がります。
前立腺は膀胱の出口で尿道を取り囲む男性の臓器で、前立腺肥大症は尿道が圧迫されて尿の勢いが弱くなったり、出るまでに時間がかかったりする病気です。
排尿時のいきみが繰り返されると、鼠径部にも圧力がかかります。
そのため、排尿時のいきみは鼠径ヘルニアの発症に関わる要因の一つと考えられています。
しかし、前立腺肥大症と鼠径ヘルニアの間に直接の因果関係は確立していません。
前立腺肥大症があるすべての人が鼠径ヘルニアを発症するわけではなく、前立腺を摘出する手術を受けた後の発症リスクとも別の問題として考える必要があります。
尿が出にくい状態が続く場合は、排尿障害そのものの原因を確認するため、泌尿器科などで診察を受けてください。
体質や病歴から見た鼠径ヘルニアになりやすい人
鼠径ヘルニアのなりやすさには、家族歴、体格、結合組織の状態、過去の手術歴といった、本人の体質や病歴も関係します。
国際的な診療ガイドラインでは、成人の鼠径ヘルニアの危険因子として、家族歴、男性であること、年齢、コラーゲン代謝の異常、前立腺摘除術の既往、低いBMIなどが挙げられています。
危険因子とは、病気の発症と統計的に関連する特徴や条件を指し、当てはまれば必ず発症するという意味ではありません。
反対に、危険因子に当てはまらない人が発症することもあります。
家族に鼠径ヘルニアになった人がいる
親やきょうだいなど血のつながった家族に鼠径ヘルニアになった人がいる場合、家族歴がない人と比べて発症リスクが高くなります。
国際的な診療ガイドラインには、第一度近親者(親・きょうだい・子)に鼠径ヘルニアと診断された人がいると発症率が高まり、特に女性で影響が大きいと解説されています。
子どもの鼠径ヘルニアにも、家系内で発生しやすい傾向がみられます。
家族内で発症が重なる理由として、腹壁をつくる組織の性質など、遺伝的な要因が関係している可能性があります。
ただし、鼠径ヘルニアは必ず遺伝する病気ではありません。
家族に患者がいても本人が発症するとは限らず、家族歴がない人にも発症します。
家族歴は発症リスクを考える手がかりの一つであり、家族歴だけで鼠径ヘルニアの有無を判断することはできません。
痩せ型の人は発症リスクが高いとする研究がある
BMI(体格指数)が低い人ほど、鼠径ヘルニアを発症する割合が高い傾向を示した研究があります。
BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割って求める値で、体格と病気の関連を調べる研究で広く用いられる指標です。
国際的な診療ガイドラインも、肥満と鼠径ヘルニアの発症には逆の相関がある、つまりBMIが高いほど発症が少ないという関連を示しています。
ただし、これらは観察研究で認められた関連であり、痩せていることが直接の原因であると証明されたわけではありません。
肥満の人では皮下脂肪によってふくらみが目立たず、診察で見つかりにくい場合があります。
そのため、診断されにくさが研究結果に影響している可能性も議論されています。
標準体型や肥満の人にも鼠径ヘルニアは起こるため、体型だけで発症の有無を判断することはできません。
結合組織の病気やコラーゲン代謝の異常がある
腹壁を支える筋膜や結合組織の性質に異常があると、鼠径ヘルニアの発症リスクが高まります。
筋膜や結合組織の強さを支える主な成分はコラーゲンで、コラーゲンにはいくつかの種類があります。
組織の強さに関わるI型コラーゲンと、柔軟性に関わるIII型コラーゲンのうち、鼠径ヘルニアの患者ではI型に対するIII型の割合が高い(I型/III型比が低い)との報告があります。
国際的な診療ガイドラインでも、コラーゲン代謝の異常は危険因子の一つに挙げられ、エーラス・ダンロス症候群などのまれな結合組織の病気も発症との関連が示されています。
エーラス・ダンロス症候群は、コラーゲンなどの異常によって皮膚や関節、血管などの組織が伸びやすくなったり、もろくなったりする遺伝性の病気です。
ただし、鼠径ヘルニアの患者すべてに結合組織の病気があるわけではなく、鼠径ヘルニアがあるというだけで特定の遺伝性の病気を疑う必要はありません。
前立腺の摘出手術を受けた男性は発症リスクが高まる
前立腺がんなどの治療で前立腺全摘除術(前立腺をすべて取り除く手術)を受けた男性では、術後に鼠径ヘルニアを発症するリスクが高くなるとの報告が複数あります。
HerniaSurge Groupによる国際的な診療ガイドライン「International guidelines for groin hernia management」(2018年)は、前立腺摘除術の既往を成人の鼠径ヘルニアの危険因子に挙げ、特に開腹による前立腺全摘除術で関連が強いとしています。
発症には、手術に伴う鼠径部周辺の組織や構造の変化などが関係すると考えられているものの、詳しい仕組みはまだ解明されていません。
危険因子とされているのは前立腺摘除術の既往であり、前立腺肥大症に対するすべての処置や手術で同じ程度のリスクがあると示されたわけではない点に注意が必要です。
前立腺の手術を受けたことがある人は、鼠径部のふくらみや違和感について医師に相談する際、手術の時期や方法を伝えると、診察時の判断材料になります。
子どもの鼠径ヘルニアは生まれつきの構造が関係する
子どもの鼠径ヘルニアは、胎児期にできる腹膜の通り道が閉じずに残ることで起こり、ほとんどが外鼠径ヘルニアです。
加齢などで後から腹壁が弱くなる大人の鼠径ヘルニアとは、発症の仕組みが異なります。
多くは乳幼児期に見つかりますが、小学生や中学生になってから気づく場合もあります。
また、早産児や低出生体重児では発症する割合が高く、生まれたときの状態も発症のしやすさに関係します。
腹膜の通り道は男の子だけでなく女の子にもできるため、女の子にも鼠径ヘルニアは起こります。
胎児期にできる腹膜鞘状突起が閉じずに残る
腹膜鞘状突起とは、胎児期に腹膜の一部が鼠径部へ向かって袋状に伸びてできる構造で、子どもの鼠径ヘルニアは腹膜鞘状突起が閉じずに残ることで起こります。
腹膜鞘状突起は、鼠径管の入り口(内鼠径輪)の部分の腹膜が、鼠径管の中へ伸びて形成されます。
腹膜鞘状突起は通常、出生時までに退縮して閉じるとされています。
しかし、閉じる時期には個人差があり、生まれた後も一部または全体が開いたまま残ることがあります。
開いたまま残った腹膜鞘状突起はお腹の中とつながった袋状の通り道となり、泣いたりいきんだりして腹圧が高まると、腸や脂肪組織などが入り込みます。
腸などが入り込んで鼠径部がふくらんだ状態が、子どもの外鼠径ヘルニアです。
ただし、腹膜鞘状突起が開いたまま残っていても、必ず鼠径ヘルニアを発症するわけではありません。
通り道が細く、組織が入り込まない場合には、症状が現れないまま経過することもあります。
早産児や低出生体重児は発症しやすい
予定日より早く生まれた早産児では、鼠径ヘルニアを発症する割合が高くなります。
小児外科の専門誌に掲載された解説では、小児全体での発生率を0.8〜5%としたうえで、早産児では発症率が30%まで上昇すると述べています。
腹膜鞘状突起は出生までに閉じていくため、閉じきる前に生まれることが発症に関係すると考えられます。
低出生体重児でも発症する割合は高く、低出生体重児の14.8〜30%に発症するとの報告があります。
ただし、早産と低出生体重は同じ子どもに重なりやすい条件です。
それぞれが独立してどの程度発症に影響しているかを区別して評価することは難しく、どちらか一方を直接の原因と断定することはできません。
また、早産児や低出生体重児のすべてが発症するわけではなく、予定日前後に生まれた子どもにも鼠径ヘルニアは起こります。
中学生など成長してから気づくこともある
子どもの鼠径ヘルニアは乳幼児期に見つかることが多い一方、小学生や中学生になってから初めて気づく場合もあります。
生まれつき腹膜の通り道が残っていても、生まれた直後からふくらみが現れるとは限りません。
通り道が残ったまま症状なく成長し、時間がたってから初めてふくらみが現れることがあります。
そのため、中学生になってから起きた鼠径ヘルニアでも生まれつきの構造が関係していることがあり、原因を運動や生活習慣だけに求めることはできません。
足の付け根のふくらみは鼠径ヘルニア以外の原因でも起こるため、学童期や思春期にふくらみに気づいた場合は、小児外科や外科で診察を受けて原因を確認してください。
筋トレやストレスは発症の原因になるのか
筋トレやストレス、運動不足が、それだけで鼠径ヘルニアを直接引き起こすという医学的根拠は確立していません。
筋トレや重い物を持つ動作は腹圧を一時的に高めるため、すでに鼠径ヘルニアがある人では、ふくらみが目立つきっかけになり得ます。
ただし、ふくらみに気づいたきっかけと、病気が新たに発症した原因は分けて考える必要があります。
重い物を持つ作業と発症の関連には研究上の不確かさが残り、精神的なストレスや運動不足を原因とする根拠も乏しいのが現状です。
発症には腹壁の構造や体質など複数の要因が関わるため、特定の生活習慣だけを原因とみなすことはできません。
重い物を持つ動作や筋トレと発症の関係は研究で結果が分かれる
重い物を持つ動作や筋トレが鼠径ヘルニアの発症にどの程度関係するかについては、研究で結果が分かれています。
重い物を持ち上げたり、筋力トレーニングで負荷をかけたりするときは、腹筋に力を入れ、息を止めて踏ん張ることで腹圧が一時的に上がります。
すでに鼠径ヘルニアがある人では、腹圧の上昇によってふくらみが大きくなったり、初めて目立ったりする場合があります。
しかし、ふくらみに気づいた場面が筋トレ中だったとしても、筋トレが発症の直接の原因とは判断できません。
国際的な診療ガイドラインでは、重い物を持つ動作は発症の素因となる可能性があるとされる一方、根拠の質は「低い」と評価され、職業や作業量の影響についても相反する研究結果があると記載されています。
作業内容や負荷の程度によって影響がどう異なるのかも、十分にはわかっていません。
筋トレをする人が必ず発症するわけではなく、筋トレをしない人にも鼠径ヘルニアは起こります。
ストレスが直接の原因になるという医学的根拠は乏しい
精神的なストレスが鼠径ヘルニアを直接引き起こすという因果関係は、医学的に確立していません。
鼠径ヘルニアは、腹壁の構造的に弱い部分や、胎児期の腹膜の通り道が残っていることなどを土台に、お腹の中の組織が押し出されて起こる病気です。
組織が飛び出すには腹壁の構造的な条件が関わるため、精神状態の変化だけで発症するとは考えられていません。
ストレスが続くと、睡眠や食事、排便のリズムなど、生活習慣や体調が変化する場合があります。
しかし、そうした変化を介してストレスが鼠径ヘルニアの発症に関係するかどうかを示した研究は乏しく、発症の原因と結びつけるには根拠が不足しています。
ストレスを減らすことで鼠径ヘルニアを予防できるという説明にも、医学的な裏付けは見当たりません。
ストレスの多い時期に発症した場合でも、精神的な負担を原因と決めつけず、腹壁の構造など体の要因が関わる病気として捉えてください。
運動不足だけで発症するわけではない
運動不足や腹筋の筋力低下が、単独で鼠径ヘルニアを引き起こすことは確認されていません。
鼠径ヘルニアの発症には、腹壁の構造上の弱さや生まれつき残った腹膜の通り道、結合組織の性質、家族歴など、運動習慣とは別の要因が関わります。
そのため、運動習慣の有無だけで発症リスクを判断することはできません。
実際に、日常的に運動している人にも鼠径ヘルニアは発症します。
一方で、適度な運動は体力の維持や便通の改善など、健康全般にとって意義があります。
鼠径ヘルニアを防ぐためだけに運動量を増やす必要はありませんが、健康づくりとして続けている運動まで控える根拠にはなりません。
発症を防ぐために日常生活でできること
鼠径ヘルニアには、発症を防ぐ方法として確立した予防法はありません。
発症には、生まれつきの構造や加齢など、本人には変えられない要因が大きく関わるためです。
そのうえで日常生活では、便秘や長引く咳への対処、重い物を持つときの体の使い方など、お腹に強い圧力がかかる機会を減らす工夫ができます。
ただし、こうした工夫は発症を防ぐことを保証するものではありません。
すでに足の付け根にふくらみがある場合の受診までの過ごし方は、鼠径ヘルニアの初期症状で紹介しています。
生活習慣の改善だけで発症を防げるとは限らない
生活習慣を見直しても、鼠径ヘルニアの発症を防げるとは限りません。
鼠径ヘルニアの発症には、生活習慣では変えられない要因が多く関わっています。
代表的なものは、胎児期にできた腹膜の通り道が閉じずに残ること、加齢による筋膜や結合組織の変化、家族歴やコラーゲン代謝の異常などの体質、男性であることです。
腹圧がかかる機会を減らす工夫は、変えられる要因の一部に働きかけるものにすぎません。
そのため、生活に気を配っていても発症する人はいます。
鼠径ヘルニアを発症したとしても、本人の生活の仕方に問題があったとは限りません。
体の構造や体質が大きく関わる病気であることを理解し、必要以上に自分を責めないでください。
便秘や長引く咳を放置せず腹圧がかかる機会を減らす
便秘や長引く咳はお腹に繰り返し圧力をかけるため、放置せずに対処することが勧められます。
便秘の一般的な対策には、野菜や果物、穀物などから食物繊維をとる、水分を十分にとる、排便のリズムを整えるといった方法があります。
持病で水分を制限されている人は、医師の指示を優先してください。
食事などを見直しても便秘が続く場合、便秘薬の使用や選び方は自己判断せず、医師や薬剤師に相談しましょう。
咳が長く続く場合は、咳の原因となっている病気がないかを確認するため、医師の診察を受けることが勧められます。
また、尿が出にくい、排尿時に強くいきむ必要があるといった症状がある場合も、泌尿器科などで原因を調べてもらいましょう。
こうした対処は腹圧がかかる機会を減らすための工夫であり、鼠径ヘルニアの発症を防げると証明されたものではありません。
重い物を持つときは無理な力みを避ける
重い物を持ち上げるときは、息を止めて強く力む動作を避け、無理のない重さにとどめることが勧められます。
息を止めて踏ん張ると、腹圧が一時的に大きく上がるためです。
持ち上げるときは、腰だけを曲げずに膝を曲げて腰を落とし、荷物を体に近い位置で抱えるようにします。
動作中は息を止めず、ゆっくり吐きながら持ち上げる方法もあります。
一人で持つには重すぎる物は、台車などの道具を使ったり、複数人で運んだりしましょう。
ただし、重い物を持つことと発症の関係は研究で結果が分かれており、日常生活や仕事で重い物を扱うことを過度に制限する必要があるとまではいえません。
仕事で重い物を扱う機会が多い人は、無理のない範囲で体の使い方を見直してみてください。
腹筋を鍛えても発症を防げるという根拠は確立していない
腹筋を鍛えることで鼠径ヘルニアを予防できるという医学的根拠は、確立していません。
鼠径ヘルニアは、鼠径管の出入り口や、筋肉の層が乏しく筋膜が中心となって支えている部分など、腹壁の構造的に弱い部分から起こる病気です。
こうした部位の弱さは、筋膜や結合組織の性質、生まれつきの通り道の有無などに左右され、筋肉の量だけで決まるものではありません。
腹筋運動で筋肉を鍛えることで、筋膜だけで支えられている部分や胎児期の通り道そのものを補強できると示した研究は、見当たらないのが現状です。
腹筋運動の動作中は腹圧も上がるため、鼠径ヘルニアの予防を目的に無理に腹筋運動を行う必要はありません。
一方、体力や健康を保つための運動には意義があるため、体調に合わせて無理のない範囲で続けてください。
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この記事を監修した人
日本外科学会専門医/日本外科学会指導医/日本消化器外科学会認定医/日本ヘルニア学会鼠径部ヘルニア習得医
年間1000人以上の鼠径ヘルニア手術を担当および監修。安全で体へのダメージや再発が非常に少ない術式〈単孔式腹腔鏡下鼠径(そけい)ヘルニア根治術(SILS-TEP法)〉を行う日本有数のドクター。
外科医向けの鼠径ヘルニア手術の教科書を多数執筆する他、主な著書に『1日で治せる 鼠径ヘルニア読本』 合同出版/2024年2月刊/『ヘルニアの外科』(共著) 南江堂/2024年10月刊などがある。
Gi外科クリニック理事長・医師 池田 義博
Gi外科クリニックへご相談ください
鼠径ヘルニア専門クリニック「Gi外科クリニック」では、岡山院(岡山市)、京都院(京都市四条烏丸)、阪神院(西宮市西宮北口)で中四国、関西を中心に鼠径ヘルニアの患者さんを治療しています。
鼠径ヘルニアという病気は、放置しておくと時に命に危険が及ぶ「嵌頓(かんとん)」を起こす可能性があります。
そのため、鼠径ヘルニアの症状がある場合は痛みの有無に関わらず、早期治療をおすすめします。
鼠径ヘルニアの症状がある方はお気軽に当院を受診ください。
24時間365日受付中!
また受診はためらうけど症状が気になる方のための無料相談窓口も設けています。
無料相談窓口では、鼠径ヘルニアに詳しい当院の看護師がご対応致します。
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(月曜〜金曜・土日を除く祝日)
カテゴリ:鼠径ヘルニア
