鼠径ヘルニア完全ガイド

鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニアの初期症状は?見た目や痛みの特徴と受診の目安を解説

足の付け根に膨らみや違和感がある場合、鼠径ヘルニアの初期症状に当てはまる可能性があります。

足の付け根は人に見せたり相談したりしにくい場所です。

そのため、膨らみに気づいても、何科を受診すればよいのか、急ぐ必要があるのかを決められないまま過ごしている人もいます。

この記事では、鼠径ヘルニアの初期にみられる膨らみの位置や触った感じ、姿勢による変化、男女による見た目の違い、痛みの特徴、受診の目安を解説します。

自分の症状を照らし合わせて確認でき、医療機関で医師に伝える情報も整理できます。

鼠径ヘルニアの初期症状は足の付け根の膨らみや違和感

鼠径ヘルニアの初期にみられる代表的な症状は、足の付け根(鼠径部)の膨らみと、つっぱるような違和感です。

初期には痛みがほとんどなく、見た目の変化だけが現れることも少なくありません。

入浴や着替えの際に、膨らみに偶然気づくケースもあります。

鼠径ヘルニアは、お腹の壁(腹壁)の弱い部分から、腹膜に包まれた腸や脂肪組織などが皮膚の下へ飛び出す病気で、一般に「脱腸」とも呼ばれます。

症状には幅があり、立ったときに膨らみが出るだけの人もいれば、違和感や痛みを訴える人もいます。

腹壁が弱くなる仕組みや発症しやすい人の特徴は、鼠径ヘルニアの原因で詳しく解説しています。

足の付け根に柔らかい膨らみが現れる

鼠径ヘルニアの膨らみは、下腹部と太ももの境目付近に現れます。

典型的な位置は、足の付け根のしわ(溝)のやや上で、恥骨(下腹部の中央下にある骨)の横あたりです。

片側だけに出ることが多いものの、左右両側に生じる場合もあります。

膨らみの大きさは人によって異なり、指で触れて初めてわかる程度の小さなものから、ピンポン玉程度のもの、さらに大きく見た目ではっきりわかるものまでさまざまです。

触った感じは柔らかいことが多い一方、飛び出している組織の種類や量によって硬さには個人差があり、必ず柔らかいとは限りません。

足の付け根の膨らみは、リンパ節の腫れや、女性にみられるヌック管水腫など、鼠径ヘルニア以外の病気でも現れます。

触った感じだけで鼠径ヘルニアかどうかを見分けることは難しいです。

医療機関では医師が膨らみの状態を診察し、必要に応じて超音波検査やCT検査などを行って判断します。

立ったときやお腹に力を入れたときに膨らむ

鼠径ヘルニアの膨らみは、立っているときやお腹に力がかかったときに現れたり、大きくなったりする場合があります。

膨らみに気づきやすい場面には、次のようなものがあります。

  • 長時間の立ち仕事をした後
  • 咳やくしゃみをしたとき
  • 重い物を持ち上げるとき
  • 排便時にいきんだとき

これらの場面では、お腹の中の圧力(腹圧)が高まっています。

腹圧が上がると腹壁の弱い部分に内側から力がかかり、腸や脂肪組織などが外側へ押し出されるという仕組みです。

立って活動した後の夕方に膨らみが目立つ人もおり、日中に立った姿勢で過ごす時間が長いことが関係していると考えられます。

医療機関の診察では、立った姿勢で咳をしてもらうなどして、膨らみの変化を確認する場合があります。

ただし、自分で強くいきむなどして、膨らみを確かめるために無理に腹圧をかける必要はありません。

どのような場面で膨らみに気づいたかをメモしておけば、診察時に医師へ伝える材料になります。

横になると膨らみが小さくなったり消えたりする

立っているときに現れていた膨らみは、横になって休むと小さくなったり、見えなくなったりする場合があります。

朝起きたときには膨らみがなく、日中に活動した後に再び現れるという変化も、鼠径ヘルニアでみられる経過の一つです。

横になると、立っているときのように重力で内臓が下方へ引かれる状態がなくなり、腹圧も下がります。

その結果、飛び出していた腸や脂肪組織などがお腹の内側へ戻ることがあり、手で軽く押すと膨らみが戻るケースもあります。

膨らみが「出たり引っ込んだりする」変化は、鼠径ヘルニアを疑う手がかりの一つです。

ただし、この変化だけで診断できるわけではなく、ほかの病気との区別には医師の診察が欠かせません。

膨らみが一時的に消えても、腹壁の弱い部分が治ったことにはなりません。

腸や脂肪組織などが飛び出す出口(ヘルニア門)は残っているため、立ち上がったりお腹に力を入れたりすると、膨らみは再び現れます。

見た目でわかる鼠径ヘルニアの膨らみの特徴

鼠径ヘルニアの見た目は、性別や膨らみの位置、大きさによって異なります。

男性では膨らみが陰嚢まで広がる場合がある一方、女性では見た目の変化がはっきりしないケースもみられます。

鏡の前に立ち、左右の足の付け根を見比べると、片側だけの膨らみなど普段との違いに気づくことがあります。

ただし、見た目だけで鼠径ヘルニアと診断することはできません。

また、膨らみが目で確認できなくても、足の付け根に違和感だけが現れる場合もあります。

男性は膨らみが陰嚢まで広がることがある

男性の鼠径ヘルニアでは、膨らみが足の付け根から陰嚢まで広がる場合があります。

男性の鼠径部には、精巣につながる血管や精管が通る「鼠径管」という通り道があります。

腹壁から飛び出した腸や脂肪組織などがこの鼠径管に沿って下がると、陰嚢の中まで達することがあるためです。

その場合、片側の陰嚢だけが大きく見える、左右の陰嚢で大きさが違うといった見た目の変化が現れます。

ただし、鼠径ヘルニアがあっても、必ず陰嚢まで広がるわけではありません。

膨らみが足の付け根だけにとどまる人もおり、飛び出す位置や大きさによって見え方は変わります。

陰嚢の腫れは、陰嚢に液体がたまる陰嚢水腫など、鼠径ヘルニア以外の病気でも起こります。

陰嚢の大きさに左右差がある場合も、見た目だけで原因を決めつけず、医療機関で診察を受けて確認してください。

女性は膨らみが目立たない場合もある

鼠径ヘルニアは男性に多い病気ですが、女性にも起こり、足の付け根に膨らみが現れる場合があります。

女性では、膨らみが小さい場合や、飛び出した組織が皮膚から深い位置にとどまっている場合などに、見た目ではっきりした変化を確認できないことがあります。

足の付け根を触ると小さなしこりのように感じる程度で、鏡で見ても左右差がわからないケースも少なくありません。

一方で、女性だから必ず膨らみが小さいというわけではなく、大きな膨らみが現れる人もいます。

症状の現れ方には個人差があるため、性別だけで膨らみの大きさや見え方を判断することはできません。

なお、女性では、足の付け根のしわ(溝)よりやや下の太もも側に膨らみが出る大腿ヘルニアとの区別が必要になる場合があります。

膨らみが見えなくても違和感だけが生じることがある

小さな鼠径ヘルニアなどでは、見た目の膨らみが確認できず、足の付け根のつっぱり感や重苦しさなどの違和感だけが現れる場合があります。

長時間立った後や、一日の活動を終えた夕方など、特定の状況で違和感に気づくケースもみられます。

医療機関の診察で膨らみがはっきりしない場合でも、必要に応じて超音波検査などを行い、鼠径ヘルニアの有無を調べることがあります。

膨らみが見えないからといって、鼠径ヘルニアの可能性がないとはいえません。

一方、足の付け根の違和感は、太ももの筋肉の疲労や股関節の病気など、鼠径ヘルニア以外の原因でも起こります。

違和感があるというだけで、鼠径ヘルニアと断定することはできないのです。

足の付け根の違和感が続く場合や、特定の動作で繰り返し現れる場合は、医療機関に相談して原因を確認しましょう。

初期の鼠径ヘルニアに痛みはあるのか

初期の鼠径ヘルニアは、痛みがない場合や軽い違和感だけの場合もあり、必ずしも強い痛みを伴うわけではありません。

痛みがあっても、軽い違和感や鈍い痛み程度にとどまることが多いとされています。

ただし、痛みの有無や強さだけで、鼠径ヘルニアの状態や緊急性を判断することはできません。

痛みがないことを理由に様子を見続けたり、痛みがあることだけで重症だと考えたりせず、膨らみの状態とあわせて症状を確認する必要があります。

初期は痛みがない、または軽いことが多い

鼠径ヘルニアの初期には痛みがほとんどなく、足の付け根の膨らみだけを自覚する場合があります。

膨らみに気づいていても、日常生活に支障がないため、そのまま過ごしている人もいます。

痛みがある場合も、軽い鈍痛や、つっぱり感・重苦しさといった違和感として現れることが多い傾向です。

違和感は、立ち仕事や歩行など体を動かした後に強まり、横になって休むと和らぐことがあります。

痛みの感じ方には個人差があり、膨らみがはっきりしていても痛みをまったく感じない人がいます。

反対に、膨らみが小さくても違和感を覚える人もおり、膨らみの大きさと痛みの程度は必ずしも比例しません。

また、初期だから必ず痛みが軽いとは限らず、発症して間もない段階で痛みを感じる人もいます。

症状の程度だけで、いつ発症したのか、どの程度進行しているのかを判断することはできません。

痛みの有無だけでは重症度を判断できない

鼠径ヘルニアでは、痛みの程度と病状の進み具合が必ずしも一致しません。

痛みがほとんどないまま、膨らみが少しずつ大きくなっていく場合もあります。

「痛くないから問題ない」と考えて様子を見続けると、膨らみの変化に気づくのが遅れるおそれがあります。

一方で、足の付け根に痛みがあるからといって、腸などが挟まって戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」のような緊急状態とは限りません。

立ち仕事の後の鈍い痛みや違和感は、嵌頓を起こしていない鼠径ヘルニアでもみられる症状です。

状態を判断する際は、痛みの強さだけでなく、膨らみの大きさや硬さの変化、横になったり手で軽く押したりしたときに膨らみが元に戻るかどうかも確認する必要があります。

特に、膨らみが急に硬くなって戻らなくなった場合は、嵌頓の可能性があるため、早急に医療機関を受診してください。

鼠径ヘルニアと似た膨らみが出るほかの病気

足の付け根や陰嚢の膨らみは、鼠径ヘルニア以外の病気でも起こります。

代表的なものとして、大腿ヘルニア、鼠径リンパ節の腫れ、陰嚢水腫、ヌック管水腫が挙げられます。

これらの病気は、膨らみが現れる位置や、膨らみの中身が腸などの組織なのか、リンパ節なのか、液体なのかといった点に違いがあります。

ただし、見た目や触った感じだけでは区別できない場合も少なくありません。

正確な診断には医師の診察が必要で、必要に応じて超音波検査などで膨らみの中身を確認します。

大腿ヘルニアは足の付け根のやや下側が膨らむ

大腿ヘルニアは、鼠径靱帯(お腹と太ももの境目にある硬い組織)の下側にある「大腿管」という隙間から、お腹の中の組織が飛び出す病気です。

鼠径ヘルニアが鼠径靱帯より上側で起こるのに対し、大腿ヘルニアでは足の付け根のしわ(溝)よりやや下、太もも寄りの位置に膨らみが現れる場合があります。

大腿ヘルニアは男性ではまれで、女性、特に中高年以降の女性に比較的多くみられます。

出口となる大腿管は狭く、周囲が硬い組織に囲まれているため、腸などが挟まって戻らなくなる嵌頓や、挟まった組織の血流が途絶える絞扼を起こしやすいとされています。

そのため、大腿ヘルニアが疑われる場合は、症状が軽くても早めに診断を受けることが勧められます。

一方、膨らみの位置だけで鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアを正確に見分けるのは困難です。

膨らみが小さい場合や皮下脂肪が厚い場合は位置の判断がさらに難しく、医師の診察や画像検査によって区別します。

リンパ節の腫れはしこりとして触れることがある

足の付け根には鼠径リンパ節があり、感染症や炎症などによって腫れる場合があります。

鼠径リンパ節は、足や陰部、下腹部の皮膚などから流れてくるリンパ液が集まる場所です。

足のけがや皮膚の感染症などがあると、細菌などに反応してリンパ節が大きくなることがあります。

腫れたリンパ節は皮膚の下にしこりとして触れ、炎症が原因の場合には押すと痛むこともあります。

鼠径ヘルニアとの区別の手がかりになるのは、姿勢による変化です。

鼠径ヘルニアの膨らみは横になると小さくなる場合がありますが、リンパ節の腫れは姿勢を変えても大きさが変わりにくい傾向がみられます。

ただし、リンパ節の硬さや痛みの有無には個人差があり、触った感じや姿勢による変化だけでは診断できません。

まれに、悪性リンパ腫やがんの転移などによってリンパ節が腫れるケースもあります。

しこりが数週間たっても小さくならない場合や、硬く大きくなってくる場合は、医療機関で原因を調べてもらいましょう。

陰嚢水腫やヌック管水腫は液体がたまって腫れる

陰嚢水腫は男性の陰嚢に、ヌック管水腫は女性の足の付け根に液体がたまって腫れる病気です。

鼠径ヘルニアが腸や脂肪組織などの飛び出しによって膨らむのに対し、水腫は袋状の空間に液体がたまることで腫れるという点で仕組みが異なります。

水腫は「押しても引っ込まない腫れ」と説明されることがありますが、すべての水腫に当てはまるわけではありません。

主に子どもにみられる、お腹の中とつながっているタイプの水腫では、液体が行き来するため、姿勢や時間帯によって大きさが変わる場合があります。

膨らみが引っ込まないから水腫、引っ込むから鼠径ヘルニアと判断することはできないのです。

医療機関では、超音波検査などで膨らみの中身が液体なのか、腸などの組織なのかを確認して区別する場合があります。

なお、水腫と鼠径ヘルニアが同時に起きているケースもあるため、どちらか一方と決めつけずに診察を受けてください。

膨らみに気づいたときの受診の目安

足の付け根に膨らみや違和感がある場合は、痛みがなくても一度医療機関で診てもらいましょう。

鼠径ヘルニアは、痛みが出ないまま膨らみだけが続くことも珍しくありません。

「痛くないから大丈夫」と様子を見ているうちに、膨らみが大きくなったり違和感が長引いたりすることもあるため、こうした変化に気づいたときも受診のタイミングです。

受診先は、大人なら外科や消化器外科、子どもなら小児外科が一般的です。 

痛みがなくても足の付け根が膨らんだら受診を検討する

鼠径ヘルニアは痛みがない状態でも起きている場合があり、足の付け根の膨らみだけが自覚症状になるケースもあります。

あらたに足の付け根の膨らみに気づいた場合は、痛みがなくても一度医療機関で確認しましょう。

大人の鼠径ヘルニアは、腹壁の弱くなった部分が自然に閉じることは通常期待できず、薬で治すこともできません。

症状が軽いうちに受診すれば、膨らみが鼠径ヘルニアによるものかどうかを確認でき、今後の経過や治療方針を落ち着いて相談できます。

一方で、受診したからといって、必ずすぐに手術が必要になるわけではありません。

症状がほとんどない成人男性の場合などには、医師と相談したうえで経過を観察する方針がとられることもあります。

治療の時期や方法は、膨らみの状態や症状の程度、年齢や持病などの体の状態をもとに判断されます。

膨らみが大きくなる場合や違和感が続く場合は相談する

膨らみや違和感が少しずつ変化している場合は、医療機関への相談を検討するタイミングです。

具体的には、次のような変化が目安になります。

  • 膨らみが以前より大きくなってきた
  • 膨らみが現れる頻度が増えた
  • 足の付け根の違和感やつっぱり感が長く続いている

膨らみや違和感によって、歩くのがつらい、仕事中に気になるなど日常生活に支障が出ている場合も、受診を早める目安です。

受診の際には、膨らみが現れる時間帯や動作、大きさの変化などを医師に伝えると、症状の経過を把握してもらう助けになります。

気づいたことを日付とあわせてメモしておけば、診察時の説明の漏れを防げます。

なお、膨らみが急に硬くなって戻らなくなった場合や、強い痛みを伴う場合は、通常の受診目安とは緊急性が異なります。

その場合は様子を見ずに、すぐに医療機関を受診してください。

夜間や休日であれば、救急外来の受診を検討しましょう。

膨らみが戻らなくなる嵌頓と緊急性の高いサイン

嵌頓(かんとん)とは、鼠径ヘルニアで飛び出した腸などの組織が、お腹の内側へ戻らなくなった状態です。

嵌頓した組織が出口で締め付けられて血流が悪くなると、絞扼(こうやく)と呼ばれる状態に進む場合があります。

嵌頓は「戻らない状態」、絞扼は「戻らない組織の血流が悪くなった状態」を指し、両者は同じ意味ではありません。

絞扼が起きると、腸閉塞や腸の壊死などの重い合併症につながる危険があり、緊急手術が必要になることもあります。

危険なサインがすべてそろうとは限らないため、異変が疑われる場合は速やかに医療機関で診てもらってください。

膨らみが急に戻らなくなった場合は速やかに受診する

これまで横になると小さくなっていた膨らみが急に戻らなくなった場合は、嵌頓の可能性があります。

膨らみが普段より硬く張っている、横になって力を抜いても引っ込まないといった変化も、注意が必要なサインです。

嵌頓は、強い痛みを伴わずに起こる場合もあります。

痛みが軽いからといって様子を見ていると、その間に組織の血流が悪化し、絞扼(こうやく)に進むおそれがあるのです。

膨らみが戻らなくなったことに気づいたら、痛みの程度にかかわらず、速やかに医療機関を受診してください。

このとき、自分で膨らみを強く押して無理に戻そうとしてはいけません。

血流が悪くなった組織を無理に押し込むと、組織を傷つけたり、異常に気づくのが遅れたりする原因になります。

戻らない膨らみをどう処置するかは、医療機関で医師が状態を確認したうえで判断します。

強い痛みや腹痛・嘔吐を伴う場合は緊急の対応が必要

足の付け根に急な強い痛みが出た場合や、腹痛、吐き気・嘔吐、お腹の張りなどを伴う場合は、腸閉塞や絞扼が起きている可能性があります。

嵌頓によって腸の通り道がふさがると、腸の内容物が先へ進めなくなり、腹痛や嘔吐、お腹の張りが現れます。

さらに、締め付けられた腸の血流が悪くなると、時間の経過とともに腸が壊死する危険が高まります。

腸の壊死が進むと、腸に穴が開いて腹膜炎を起こすなど、命に関わる状態に至ることもあります。

このような症状がある場合は、通常の診療時間まで待たず、救急外来で速やかに診察を受けてください。

激しい痛みが続く、嘔吐を繰り返す、冷や汗が出る、顔色が悪くぐったりしているなど、全身の状態が悪化している場合は、119番通報で救急車を呼ぶことも検討しましょう。

膨らみの皮膚に赤みや変色が現れることがある

嵌頓や絞扼が起きた場合、膨らんでいる部分の皮膚に赤み、暗い赤色、紫色などの変化が現れることがあります。

皮膚の色の変化には、締め付けられた組織の炎症や、血流の悪化などが関係していると考えられます。

膨らみの部分が熱を持っている、触れると強く痛むといった変化を伴う場合もみられます。

皮膚の変色は、絞扼など重い状態を疑う手がかりの一つです。

膨らみが戻らない状態で皮膚の色が変わっている場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。

ただし、皮膚の色が変わっていないからといって、嵌頓や絞扼を否定することはできません。

お腹の中で血流が悪くなっていても、皮膚の見た目には変化が現れないケースがあるためです。

皮膚の色だけで安全かどうかを判断せず、膨らみが戻るかどうかや、痛み、腹部の症状とあわせて状態を確認しましょう。

初期症状を放置した場合の経過と治療の考え方

大人の鼠径ヘルニアは、自然に治ることが通常期待できない病気です。

放置した場合、時間の経過とともに膨らみが大きくなったり、違和感や痛みが強くなったりする場合があります。

根本的な治療は手術ですが、症状がない、または軽い成人男性では、すぐに手術をせず経過観察が選ばれることもあります。

治療方針は、症状の程度や年齢、性別、健康状態などを考慮して判断されるため、すべての人に同じ対応が適しているわけではありません。

なお、ヘルニアバンドなどの装具では、鼠径ヘルニアそのものを治すことはできません。

大人の鼠径ヘルニアは自然に治ることが期待できない

大人の鼠径ヘルニアでは、腸などが飛び出す出口となっている腹壁の弱い部分が、自然に閉じて治ることは期待できません。

腹壁の弱い部分には、加齢による組織の衰えや生まれつきの体の構造などが関係しており、薬や生活の工夫で元の状態に戻すこともできないのです。

横になると膨らみが消える、痛みや違和感が一時的に軽くなるといった変化はよくみられます。

しかし、飛び出していた組織が一時的にお腹の内側へ戻っただけで、鼠径ヘルニアそのものが治ったわけではありません。

膨らみは、時間とともに少しずつ大きくなっていく場合があります。

一方で、変化の程度や速さには個人差があり、長い期間ほとんど大きさが変わらない人もいます。

すべての人で急速に悪化するわけではないものの、症状が落ち着いているように見えても、病気そのものは残っています。

根本的な治療には手術が必要になる

大人の鼠径ヘルニアを根本的に治療する方法は、手術です。

手術では、飛び出した組織を元の位置に戻し、腹壁の弱い部分を修復・補強します。

補強には、メッシュと呼ばれる人工の補強材を用いる方法が広く行われています。

代表的な手術方法は、次の2つです。

  • 鼠径部の皮膚を切開して、表側から修復する方法
  • お腹に小さな穴を数か所開け、腹腔鏡(お腹の中を映すカメラ)を使って腹壁の内側から修復する方法

どの手術方法をいつ行うかは、鼠径ヘルニアの種類や症状、年齢、持病、過去のお腹の手術歴などをふまえて医師が判断します。

手術にも、出血や感染、術後の痛み、再発などの可能性があり、手術方法によって麻酔の種類や体への負担も異なります。

なお、手術が根本的な治療法であることと、診断された人全員がすぐに手術を受ける必要があることは同じではありません。

症状が軽い成人男性では経過観察を選ぶ場合もある

症状がない、または軽い成人男性の鼠径ヘルニアでは、医師の判断により、すぐに手術を行わず経過観察を選ぶ場合があります。

このような場合は、嵌頓を起こす危険性が比較的低いと考えられているためです。

経過観察とは、何もせずに放置することではありません。

定期的に膨らみや痛みの変化を確認し、必要に応じて治療方針を見直していく方法です。

経過観察中に膨らみが大きくなったり、痛みが強くなったり、日常生活に支障が出たりした場合は、手術が検討されます。

実際に、経過観察を始めた人の中にも、症状の変化によって後から手術を受ける人は少なくありません。

一方、女性では、嵌頓を起こしやすい大腿ヘルニアの可能性も考える必要があります。

子どもの鼠径ヘルニアは、生まれつき残っている通り道が原因となるなど、大人とは発症の仕組みや治療方針が異なります。

成人男性の経過観察の考え方を、女性や子どもに一律に当てはめることはできません。

ヘルニアバンドでは鼠径ヘルニアそのものは治らない

ヘルニアバンドは、鼠径部の膨らみを外側から押さえて支える装具です。

膨らみが出るのを一時的に抑えられる場合はありますが、腹壁の弱い部分を修復するものではありません。

ヘルニアバンドを着けても鼠径ヘルニアは治らないため、外せば膨らみが再び現れることがあります。

使い方や体の状態によっては、圧迫による皮膚のかぶれや擦れ、不快感が生じる可能性もあります。

また、膨らみがお腹の内側へ戻っていない状態で、その上から強く圧迫することは避ける必要があります。

ヘルニアバンドの使用を検討する場合は、自己判断で始めず、医師に相談してください。

ヘルニアバンドで症状を抑えられている場合でも、受診や治療方針の検討を先延ばしにしないようにしましょう。

受診までの日常生活で気をつけたいこと

すでに足の付け根の膨らみに気づいている場合、受診までの間は、お腹に強い負担をかける動作や無理な対処を避けましょう。

具体的には、重い物を持つなど腹圧が高まる動作、膨らみを無理に押し戻す行為、排便時の強いいきみに注意が必要です。

これらは、膨らみや違和感を強める原因になる場合があります。

ただし、日常生活での工夫は負担を減らすための対応であり、鼠径ヘルニアそのものを治療する方法ではありません。

膨らみが戻らない、強い痛みがあるなどの症状がある場合は、生活の工夫で様子を見ず、速やかに医療機関を受診してください。

重い物を持つなどお腹に強い力がかかる動作を控える

重い荷物を持ち上げたり、強く踏ん張ったりする動作では腹圧が高まり、鼠径部の膨らみや違和感が強くなる場合があります。

腹圧が上がると、腹壁の弱い部分に内側から力がかかり、腸などの組織が押し出されるためです。

受診までの間は、膨らみや違和感が出る力仕事や激しい運動を無理に続けないようにしましょう。

荷物を小分けにして運ぶ、重い物は台車を使う、家族や同僚に手伝ってもらうといった工夫も、体への負担を減らす方法です。

一方、通常の歩行や家事など、日常生活の動作を一律に制限する必要はありません。

症状が強くならない範囲であれば、普段どおりに体を動かして構いません。

仕事で重い物を持つ機会が多いなど、負担を避けにくい事情がある場合は、受診時に医師へ伝えて相談してください。

膨らみを自分で無理に押し戻さない

足の付け根に膨らみが現れても、強い力を加えて押し込んだり、無理にお腹へ戻そうとしたりしないでください。

横になって力を抜いたときに自然に引っ込むのは鼠径ヘルニアでみられる通常の変化ですが、戻らない膨らみを力ずくで押し込むのは危険です。

医療機関では、医師が膨らみの状態や血流の悪化がないかを確認したうえで、必要に応じて膨らみを戻す処置を行う場合があります。

医師の判断のもとで行う処置と、自分で無理に押し戻す行為はまったく異なります。

自己流で押し込むと、組織を傷つけたり、嵌頓や絞扼が起きているサインを見逃したりするおそれがあります。

膨らみが急に戻らなくなった場合や強い痛みを伴う場合は、自分で対処しようとせず、速やかに医療機関を受診しましょう。

便秘を防いで排便時のいきみを減らす

便秘で排便時に強くいきむと腹圧が高まり、鼠径部の膨らみや違和感が強くなる場合があります。

受診までの間は、便を出しやすい状態を保ち、排便時のいきみを減らす工夫をしましょう。

一般的な便秘対策には、次のようなものがあります。

  • こまめに水分をとる
  • 野菜、果物、海藻、きのこ、豆類など食物繊維を含む食品を食事に取り入れる
  • 朝食後など決まった時間にトイレに行く習慣をつける
  • 便意を感じたら我慢せずにトイレに行く

便秘薬の使用を検討する場合や、生活の工夫を続けても便秘が改善しない場合は、医師や薬剤師に相談してください。

持病で水分や食事の制限がある人や、ほかの薬を服用している人は、対策を始める前に医師へ確認しておきましょう。

なお、便秘対策は排便時の負担を減らすための工夫であり、鼠径ヘルニアそのものを治す方法ではありません。

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この記事を監修した人


日本外科学会専門医/日本外科学会指導医/日本消化器外科学会認定医/日本ヘルニア学会鼠径部ヘルニア習得医
年間1000人以上の鼠径ヘルニア手術を担当および監修。安全で体へのダメージや再発が非常に少ない術式〈単孔式腹腔鏡下鼠径(そけい)ヘルニア根治術(SILS-TEP法)〉を行う日本有数のドクター。
外科医向けの鼠径ヘルニア手術の教科書を多数執筆する他、主な著書に『1日で治せる 鼠径ヘルニア読本』 合同出版/2024年2月刊/『ヘルニアの外科』(共著) 南江堂/2024年10月刊などがある。

Gi外科クリニック理事長・医師 池田 義博

Gi外科クリニックへご相談ください

鼠径ヘルニア専門クリニック「Gi外科クリニック」では、岡山院(岡山市)、京都院(京都市四条烏丸)、阪神院(西宮市西宮北口)で中四国、関西を中心に鼠径ヘルニアの患者さんを治療しています。

鼠径ヘルニアという病気は、放置しておくと時に命に危険が及ぶ「嵌頓(かんとん)」を起こす可能性があります。
そのため、鼠径ヘルニアの症状がある場合は痛みの有無に関わらず、早期治療をおすすめします。

鼠径ヘルニアの症状がある方はお気軽に当院を受診ください。

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また受診はためらうけど症状が気になる方のための無料相談窓口も設けています。
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